2012.08.21 Tuesday
『故事俗信 ことわざ大辞典 第二版』(小学館)
【校正担当者より】 ごぶさたしております、校正者の卵・おーかわでございます。 金曜日は代休を取得して3日間のんびりしようと思っていたところ「3日間もあれば余裕だよね」とばかりに執筆の命が下りました。いつもながら制管K松さんは人使いが荒……もとい、仕事の振り方が的確でいらっしゃいます。 無駄口はさておき、こんな言葉をご存じでしょうか。 「極日(ごくにち)のあほう照り」「側にある炒り豆」「年劫の兎」 全てこの本に掲載されているはずです。気になった方は本書をご覧下さい。 上記の書名をご覧になって「故事やことわざの辞典はよくあるけど、俗信の辞典?」と思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。私自身、当初「俗信」に関しては内容の想像がつきかねていました。 ところがいざ読み始めてみるとこれが面白い! 例えば「朝焼けは雨、夕焼けは晴れ」というのは有名な俗信ですが、同じ夕焼けでも「春の夕焼けには蓑と笠」「夏の夕焼け雨が降る」など、季節によっては雨の前兆という扱いになっているのです。 このほか「蕎麦は黒粒三つぶら下がれば刈って良い」のような先人の知恵と言うべきものから「鼠が畳の塵をほじくると引っ越しがある」などの因果関係がよく分からないものまで、まさに多種多様。加えて故事成語やことわざにも初めて目にするものが多く、校正者の卵としても自称読書好きとしても大変勉強になる、興味深い案件でした。 本書は、あらゆる意味で異色の案件でした。 そもそも読み物ではなく、辞典。 作業期間は全体で約半年。短いものなら即日お戻しという場合もある弊社においてはこれだけでも異例です。 出校は毎回数十ページずつ、その時々でスケジュールの都合がつく人が担当。主要メンバーはある程度決まっていましたが毎回少しずつ顔ぶれが違ったので、最終的に何人の校正者が関わったのか、末端の私には結局分からないままでした。 私の作業は赤字照合と素読み。但し文字化け・文章の脱落などがあった場合は『第一版』にて確認の上ゲラに入朱。さらに記号や体裁の統一ルールなどいろいろな規定があったのですが、ここには書き切れません(そもそも最早完全には思い出せない)。 作業の中で特に大変だったのが原稿との赤字照合です。本書の原稿は、どのページにも平均2〜3種類の筆跡が異なる赤字が(時には青字・黒字も)入っていました。それも、大量に。 それだけ執筆段階から多くの方が関わっていらっしゃるということなのですが、当時はそのことに思いを馳せる余裕などまるでなく「癖の強い字だなあ……何て書いてあるんだろこれ」「引き出し線が交差してる?! これどこに入る文章ですか!?」などと、文字通り原稿とにらめっこしながら日夜首をひねっておりました。 また一般の書籍より文字が小さいために、原稿やゲラを読んでいるだけの作業にしてはやけに目と肩が疲れる、というのも特徴のひとつでした。 本書に携わっていた時期、私は毎日の作業内容や所要時間を記録するメモ帳の端っこに気になった言葉を書き留めていました。冒頭の語はその一部です(再校以降で削られていませんように)。たまに「長い浮き世に短い命」など、今となっては何を考えてメモしたのかと思うような語もあるのですが、中にひとつ、特別な思い入れを持って書き取ったものがあります。 「書を校するは塵を払うが如し」 塵を払い尽くすことができないように、どんなに念を入れて校合(きょうごう)しても書物を完全なものにするのは難しい。 この「校する」は「校正」ではなく、今で言う突き合わせに近い作業ですが、日々仕事と向き合う上で大切にしたい言葉です。 《文責:おーかわ(校閲部)》
東京神楽坂 書籍校閲専門 鴎来堂(おうらいどう) http://www.ouraidou.net/ |